流山電鉄から考察する流山の栄枯盛衰

明治維新による近代化の波が流山に押し寄せた。常磐炭坑から搬出する石炭輸送に端を発した鉄道計画と水運業者の攻防戦が流山電鉄誕生の遠因といえる。

流山電鉄から考察する流山の栄枯盛衰

常磐線は常磐炭坑から石炭を運ぶ鉄道だった

富国強兵に大きく舵を切った明治政府にとって、石炭の搬送こそが近代化のカギを握っていました。
常磐炭坑から、すでに開通していた現在の東北本線の首都圏の駅、田畑駅までを結ぶ鉄道として、現在の常磐線、日本鉄道土浦線（田畑・土浦間）が計画されたのです。

常磐線ができた頃の流山は一大物流拠点だった

流山は江戸川を利用した首都圏の一大物流拠点でした。
江戸時代には東北や房総半島の年貢米の集積地として栄え、酒や味噌、醤油、さらに白みりんに加工することにより発展していました。

さらに明治23年（1890年）には日本初の西洋式運河、利根運河開通により、銚子から利根川を遡行して利根運河を経て流山、そして首都東京への水運ルートが開かれます。
ますます流山は水運を利用した一大物流拠点へと発展していったのです。

常磐線が流山を避けて柏方面へと迂回したわけ

田畑から土浦を経て常磐炭坑に向かう路線として計画されたのは、最短距離でもある流山経由だったそうです。
ところが以下の二つの理由によって流山周辺を避けて、当時は荒れ野が残っていた柏・安孫子方面経由となります。

≪理由その１　商家や民家が密集していた≫

物流拠点の流山には、酒やみりん、味噌や醤油などの数多くの醸造所もあり、物資の集積や水運に関わる人たちが数多く住んでいました。
つい最近まで徳川幕府の軍用馬の放牧地として、ニホンオオカミが生息していた荒れ野が残る柏方面と比べると用地の買収の難攻が予想されたのです。

≪理由その２　海運業者を先頭に反対運動が起きた≫

水運業者にとって鉄道は商売敵そのものです。

彼らの反対は当然のことながら、当時の鉄道は煙や火の粉をまき散らす蒸気機関車です。
流山に多かった醸造業者にとっても不安の種が尽きません。

さらに鉄道が貨物輸送中心の時代ですから、今と違って交通の便に役立つなどという発想はありません。
鉄道建設に賛同する人などどこにもいなかったのです。

すぐに水運を凌駕する鉄道の時代がやってきた

流山電鉄の開通は大正２年（1913年）です。明治29年（1896年）の日本鉄道土浦線（田畑・土浦間、現常磐線）開通から17年の月日が経っていました。
その間に鉄道は物流から人の移動手段として定着して行きました。

流山を尻目に一大発展を遂げた柏

流山の人たちは徒歩で２時間くらいかかる常磐線の松戸駅まで歩いて通っていたそうです。

その後、明治31年（1898年）には馬橋駅、明治44年（1911年）に北小金駅が開業して流山から徒歩１時間程度で鉄道利用が可能になったのですが、人と物の移動手段としての鉄道の優位さは比べるまでもありません。

水運と鉄道がもたらした流山の栄枯盛衰

荒れ野だった柏や我孫子が栄えていきました。

時を経て昭和29年（1954年）には、東葛地域の中心となった柏は市になりました。流山が市になったのは昭和42年（1967年）ですから、交通の便ともいえる鉄道の歴史が地域の発展に与えた影響は凄まじいものがあります。

その違いは明治の終わりごろには、すでに流山の町民の共通認識になっていました。
松戸や柏の発展を横目で見て、「流山にも鉄道を」という機運が沸き上がって行きます。
大正元年（1913年）には流山在住の有志が集まって鉄道敷設申請を提出します。

流山電鉄は史上初の「町民鉄道」だった

その後「流山軽便鉄道㈱」が設立されるのですが、主な出資者の中には、みりんの二大製造元、「万上みりん」堀切家や「天晴みりん」の秋元家の当主の名前もあります。
流山町長も役員に名前を連ねていました。

しかしそれだけでなく、流山軽便鉄道㈱には流山の町民の多くが、祭の寄付金さながらに所得に応じて出資に応じたそうです。
これこそが、流山電鉄が「町民鉄道」と呼ばれる所以でもあるのです。

当時としては、現在のクラウドファンディングに似た形態で、鉄道建設を実現した史上まれに見る出来事だったようです。

そして今、流鉄は……

もともと流山の町民が出資して作った総延長5.7㌔の小さな鉄道会社です。平成20年（2008年）に流鉄（りゅうてつ）流山線と名称を変更しました。小さいけれども鉄道と流山の歴史そのものを、今も語り継いでいます。

平成17年（2005年）にＴＸ（つくばエクスプレス）が開業しました。ＴＸの正式名称は「常磐新線」です。
しかし新線の名前とは裏腹に、歴史を振り返れば常磐線の本来の計画路線、明治の初めに計画された流山を経由して常磐方面へと向かう路線そのものの復活です。

常磐線が流山を避けて柏方面に迂回しなければ、流山の町民鉄道「流鉄」は生まれなかったでしょう。
そして今、本来の常磐線の復活であるＴＸの登場により流鉄の乗車数が急減しているそうです。

温故知新と言います。だからたまには流鉄に乗ってみませんか？　
流山の町も流鉄も、都心から近いのですが、なぜか懐かしい故郷の装いを今に残しています。
紆余曲折があったがゆえに、未来都市と懐かしい故郷が同居する流山の良さが分かるかもしれません。

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