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戦争と芸術【歴史探究・現代文・芸術】~日本史担当O講師シリーズ~

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みなさん、こんにちは!
京王線調布駅 徒歩3分にある大学受験の個別指導塾
「日本初!授業をしない塾」武田塾調布校です!

 

 

「プロパガンダ」

皆さんはこの言葉を聞いたことはありますか?
新語時事用語辞典によると「プロパガンダ」とは、個人や集団を特定の主義や思想・教義・原理などに誘導したりそれらの行動を広めたりするための計画的で政治的な意図を持った宣伝活動のことを意味する表現。らしいです。(引用:weblio.jp)

歴史の授業をとっている人は、第二次世界大戦の範囲で聞いたことがあると思います。
「馬鹿馬鹿しい」
「こんなのに騙される人がいるのか」
と今ならそう思えるかもしれませんが、当時の人にとってはそれが流行であり、主流だったのです。

以前のブログでは1500〜1920年頃までの絵画、芸術について解説しました。まだ見ていない人はこちらからご覧ください。
今回のブログでは20世紀の、イタリア・ドイツ・日本に焦点を当てて戦争と芸術の関連性についてお話ししていこうと思います!

取り上げた理由としては、この時代のこの三カ国は歴史の中でよく全体主義、ファシズムと括られることが多いからです。
参考にした書籍はブログの最後に載せておくので、興味があったらぜひ読んでみてください!

 

 

・イタリア

1900年代、イタリアでは「未来派」という文化運動が流行りました。
美術分野だけでなく、文学、演劇、建築、音楽、写真、映画など、様々な分野が入り混じり領域横断的な運動だったそうです。

彼らの理念を簡単に説明すると
「古いものはダメ。科学技術やテクノロジーといった新しいものが素晴らしい!!」というものです。

なぜそのような考えに至ってしまったのか。

それは当時の世界情勢とイタリアの状況に関係があります。当時の社会は、資本主義の走り出しの時期でした。イギリスでは産業革命が起き、従来の仕事が機械に取って代わられ、富める者と貧しき者との格差が拡大された時代です。

一方イタリアは、古代ローマやルネサンス期の遺産に縋り、なんとか国力を保っている状態でした。当時から観光というのは行われていたんですね。

未来派の創始者であるイタリアの詩人マリネッティはこのようなイタリアという国を「過去主義的都市である」と攻撃をしました。これが未来派の始まりです。

彼らの作品は従来の作品と比較してスピード感に溢れており、そのダイナミズムを捉えた作品になっています。
ボッチョーニの《走っている機関車》やルッソロの《自動車のダイナミズム》といった作品を例に挙げることができます。ぜひ見てみてください。また、ルッソロは楽器を一切使用しない「騒音音楽」というものも始めました。全部名前からして機械化賛美のような傾向を読み取ることができます。

マリネッティが出した「未来派創立宣言」という宣言文の9番目には
「戦争こそが世界の唯一の健康法であり、軍国主義は栄誉に与るべきイデオロギーである」
と記されています。
このような姿勢からも、過去への否定、未来への憧れが彼らの思想だったのだと感じることができるでしょう。

未来派宣言から5年後、第一次世界大戦が勃発します。当時のイタリアは中立の立場をとっていました。
そこに反抗したのが未来派でした。
彼らは群衆の中で仮想敵国であるオーストリアの国旗を燃やすなどの反対運動に出ます。
これらの行動がどれほど影響を及ぼしたのかは定かではありませんが、世論も徐々に傾き、結果的にイタリアは第一次世界大戦に参戦することになりました。
後のイタリアがムッソリーニを中心としてファシズム国家を形成していったのはいうまでもありません。

 

・ドイツ

1932年、ドイツ人映画監督のレニ・リーフェンシュタールの『青の光』という映画が上映されました。この映画は商業的にも成功し、ヴェネツィア国際映画祭で銀賞も受賞することができました。

この映画に強い感銘を受けたのがヒトラーです。

ヒトラーはリーフェンシュタールに自身の党大会で使用する映画の作成を依頼しました。
『信念の勝利』や次の大会時に使用された『意志の勝利』『オリンピア』という作品を次々に生み出していきます。これらの映画はどれもナチスを讃えるプロパガンダ映画でした。
ちなみにヒトラーは元々画家志望であり、美術アカデミーを受験した経歴もあります。結果的には不合格でしたが、芸術の素養があったが故に、芸術が民衆に与える有効性を知っていたのでしょう。

リーフェンシュタールの作る映画が国際的にも評価を受けた理由としては映像美が挙げられます。事実、彼女は作品に対してものすごいこだわりがあったようです。

このような映像美、意図された高揚感や感動に魅せられた民衆は、ナチ的な思想に傾倒していきます。

それにもかかわらず、リーフェンシュタールは戦後の裁判や取材で、自身がプロパガンダのために作品制作をしていたことを一切認めなかったそうです。

以前載せた『人間の条件』を少しでもわかりやすく!【現代文模試・解説】というブログでは、ここで話した「民衆」の形成についても触れていますのでみてご覧ください。

 

・日本

1938年、国家総動員法が制定され、日本では総力戦体制に向けて徐々に動き出していました。
このような社会情勢の中、従軍経験のある画家たちにより大日本陸軍従軍画家協会という団体が設立されます。彼らは主に「戦争画」を描きました。

「戦争画」というものについて少し話しておきます。

そもそもこの言葉の意味としては「戦争に関係する事柄を主題とする絵画」となるでしょう。ピカソの書いた《ゲルニカ》という作品は、スペイン内戦の惨状を描き、反戦を訴えました。これも戦争画です。
ただ、彼らが描いた戦争画は国民を一つにする目的、戦意高揚の意図のもと作成されました。
「第一回聖戦美術展」、「第一回大東亜戦争美術展」、「第一回陸軍美術展」というような展覧会が1930年代末から1940年代初頭にかけて立て続けに開催されました。当時の日本では生活必需品が切符制・配給制を引かれていたり、贅沢品の使用を控えられているという生活が逼迫していました。それにも関わらずこれらの展覧会に足を運ぶ人は多かったそうです。

ここから、製作者や政府だけでなく、国民も自ら戦意高揚されることを望んでいたことがわかります。

戦争画を描いた有名な画家として藤田嗣治が挙げられます。彼は元々はパリで暮らしており、エ・コールドパリと呼ばれる画家集団のうちの一人でした。世界的にも有名な画家のうちの一人です。
戦後、彼を批判する声が多数あり、日本を離れます。2度と日本には戻りませんでした。

 

・偶像と民衆

ここまで、三カ国の芸術と戦争の関わりを話していきました。
では、ここから読み取れる共通点はどのようなものでしょうか?

まず一つ目は偶像を作り上げることです。
ここでの偶像は「理想」と「敵」の二種類に分けられます。
理想的側面で言えば、リーフェンシュタールがナチスを讃える映画を作成したのが良い例です。元々あったものでなく、作品の中に理想という偶像を落とし込みました。
敵の側面は、イタリア未来派の旧来の自国の姿勢についての非難や、日本の戦争画で敵国人を描く場面に見て取れます。ナチスのユダヤ人迫害もそうですね。
元々はない「敵の顔」を描き出し、「敵国」への憎悪を掻き立てます。

二つ目は民衆の受容です。
現在の我々からすると「おかしい」ことを、当時の人は「当たり前」と捉えて受け入れてきました。他民族への差別や迫害、これはこの三カ国だけの問題ではなく、現在でも続いている問題です。

 

・最後に

読んでくれたらわかる通り、芸術と社会の区別は明確でなく、これらの関係性を善と悪という単純な二元論で片付けることは困難です。
自身もその動きに加担していたのにも関わらず、いざ時勢が変われば自分の意見を簡単に変え批判に移る民衆も多いわけです。

現在の社会でいうと、皆さんは好きなYouTuberや有名人の意見を受け入れることが多いと思います。
しかしその影では、他の意見が盲目的に否定されている現状にどれだけの人が気付けているのでしょうか?
そこまで考慮し、なお意見を持つのであれば構いません。
ただ見落としてしまうと極論皆さんも20世紀の民衆のような存在になってしまうかもしれません。と、ちょっと批判的にまとめてみました。

 

いかがでしたか?
大学入試は社会情勢を踏まえて作問する場合も多いです。
このような歴史的背景を知っておくと受験に有利になるかもしれないですよ(^^)

参考文献
山本浩貴.(2019).現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル.中公新書

 

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