先日、居酒屋で昔の仲間とお酒を飲んでいた時の話です。
某大手製薬会社の人事部に勤務していて大学卒業見込みの新卒採用を担当している友人が、突然、「今の早慶に合格するのは、約30年前のバブル期のMARCHと同レベルなんだよ!」と話し始めました。
周りにいた友人たちは口々に「いや、最近の学生さんの方が30年前より難しい勉強をしてるんじゃないの?」「僕らが学生の頃は自主休講ばかりでろくに授業にでなかったけど、最近の学生さんは超真面目に出席してるって聞くよ!」と反論しました。
でも、その友人はそれらの反論を全て論破した後に「原因は、急激なスピードで少子化が進んでいるけど、大学側の受け入れ人数はあまり減らされていないからなんだよ」と言って、スマホで検索した統計データを見せてくれました。「この事実は、日本の大企業で新卒採用をやっている人事部のおじさん達の間で秘かに有名な話だよ」と締めくくったのでした。
真偽のほどは確かでないのですが、今日はこの話をご紹介します。
入学試験の難易度と合格し易さは別問題
入学試験とは、究極的には受験生に順番をつけて上位者から合格させていくシステムなんです。
だから、簡単な問題が出題されれば高得点での競争となり、難しい問題が出題されれば低い得点圏で競争になります。そうなると問題の難易度を議論するのは無意味になります。例えば、30年前の受験生と今の受験生では、どっちが難しい問題に取り組んでいるかという議論は無意味だということになります。
また、昔の偏差値と今の偏差値を単純に比較することも無意味です。大学への進学率が異なるから模擬試験を受ける母集団が異なるからです。いわゆるFラン大学というのは30年前には存在しなかった(多分?)ので、その層が母集団に加わることで上位者の偏差値がかさ上げされることになります。
では、どうやって比較すればいいのでしょうか?その答えの一つとして、同学年の全体の人数を母集団と考えて、そのうちの上位何%が早慶レベル以上の大学に入学できているかを比較してみることが考えられます。
例えば、今年度の入試で早慶レベル以上の大学に合格した人数が18才人口の上位何%になるのかを計算して、それを30年前のデータと比較すればいいのです。例えば、今年なら上位3%程度が早慶レベル以上に合格しているけど、30年前なら上位1~2%でなければ合格できなったとなると「今の早慶は、30年前のMARCHレベル」という話も本当らしく聞こえてきます。
統計データの収集
では、具体的に統計データを集めていきましょう。
まず、大学入試の合格者の人数ですが、残念ながらこのようにデリケートなデータ(つまり、合格者数から入学者数を引き算すれば、入学辞退者の数が明らかになってしまいます)はどこの大学も発表していません。入学定員は公表されているのですが、実際には定員以上の合格者を出しています。更には、付属高校からの内部進学者や指定校推薦やAO枠も考慮しなければならないので、なかなか面倒な作業となります。
結論としては、各大学のホームページで学生登録者(つまり、1~4年生で医・薬学部は1~6年生の全学生で留年等を含む)の人数を公表しているので、このデータを使います。
早稲田大学の学生数
早稲田大学は、1990年から今年まで毎年の学生数を公表しています。1990~2004年までは概ね今年(2019年)の5~10%増で推移しおり、その後、2005~7年に14%増でピークを迎えてから徐々に学生数が減少しています。尚、早稲田大学の学生数には、通信教育課程(人間科学部)を含んでいますが、その人数は7~800人程度なので大勢に影響はありません。
出所: 1990-2010: https://www.waseda.jp/top/news/106
2011以降: https://www.waseda.jp/top/about/disclosure/studentsのデータよりグラフを作成
慶応大学の学生数
慶応大学は、過去の学生数のデータは公表していないようです。但し、なぜか2000~4年の5年間についてデータが公表されていました。これら限られたデータを見る限り、慶応大学では2000~4年の学生数は今年(2019年)とほぼ同数で推移しています。尚、慶応大学の学生数には、通信教育課程は含まれていません。
出所: 2000-2004: https://www.keio.ac.jp/ja/about_keio/data/tenken/pdf/gakusei.pdf
2019: https://www.keio.ac.jp/ja/about/assets/data/2019-university.pdfのデータよりグラフを作成
東京大学の学生数
東京大学は2009年以降の学生数のデータを公表しています。慶応大学と同様に、公表されている年度では今年(2019年)とほぼ同数で推移しています
出所: https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/edu-data/e08_02_01.html のデータよりグラフを作成
(東大は各年度5月と11月の学生数を発表しているが、5月を採用した)
京都大学の学生数
京都大学は1995年以降のデータが公表しています。1995~2003年までは今年(2019年)の5%増で推移していましたが、その後は今年とほぼ同数で推移。なぜか、2014~5年にもう一度5%増となった後に今年とほぼ同数に戻っています。
出所: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/data/copy_of_students/gakubu_suii.htmlのデータよりグラフを作成
尚、どの大学も年代を追うごとに女子学生の比率が高くなっていることが特筆されるべき点であります。やはり、ゆっくりとしたペースですが着実に男女平等の方向に向かって進んでいることが学生数の統計データからも確認されます。(個人的には、もっと速いペースで進んでいいと思うのですが・・・)
早慶レベル以上の合格者数の推定
今年(2019年)の各大学の学生数は、以下の通りです。
早稲田大学 40,267
慶応大学 28,643
東京大学 14,058
京都大学 12,992
計 95,960人
繰り返しとなりますが、この学生数は1~4年生(医・薬学部は1~6年)までの総数なので、毎年の入学者は1/4倍(厳密には、医・薬学部生に関しては1/6だが大勢に影響がないので計算を簡略化する)して23,990人(=95,960 x 1/4)となります。
早慶レベル以上の大学と言えば、一般的に頭に浮かぶのは東大・京大・医学部に一橋大・東工大を加えた辺りになることでしょう。医学部生の人数の概算値として定員100名程度 x 47都道府県=4,700人となり、これに一橋大・東工大等の約2,000人を加えると、早慶レベル以上の合格者数が推計される。
すなわち、早慶レベル以上の合格者数は、約31,000人(=23,990+約4,700+約2,000)となります。この人数が、1990年以降で概ね5~10%増程度で推移している傾向にあります。
20歳の人口
最後に、母集団となる18歳の人口を集めてきます。日本は戸籍制度が整っているので、理論的には18歳の人口データも問題なく入手できるはずなのですが、実際に政府統計のデータから特定年齢の人口を長期間にわたって抽出するのは手間がかかるので、ここは簡略化して新成人(20際)の人数で代用したいと思います。
出所: https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi852.htmlのデータよりグラフを作成
やはり、少子化が進んでいるようで1990~6年までは200万人前後(今年の約60%増)という高水準で推移し、その後は一貫してなだらかに減少しています。早慶レベル以上の合格者数が約5%程度の増加であるのに比べて20歳の人口は約60%増となっているので、その差は歴然としています。
早慶レベルの合格者
2019年のデータに基づいて計算すれば、早慶レベル以上の合格者数は約31,000人で20歳の人口は119万人となっているので上位2.6%(=31,000人 ÷ 119万人)となります。
次に30年前のデータと比較したいのですが、ここでも便宜的に早稲田と京大のデータがある1995年と比較してみましょう。一定の仮定を置いて1995年の状況を推測すると、上位1.6%(=約31,000人x 1.05 ÷ 201万人)が早慶レベル以上に合格していると推定されます。
つまり、1995年から2019年にかけて約1%分の受験生が余計に合格できるようになってきたことが統計データから確認されます。もともと1995年の合格者が上位1.6%だった状態でしたが、2019年には更に次の1%の受験生も合格できるようになったと考えれば、その差は少なくありません。
でも、だからといって、その1%がMARCHレベルに対応するかについては何の分析もありません。従って、「今の早慶は、30年前のMARCHレベル」とまで言い切れるかは疑問が残ると思います。
今回の話に意見を言いたい人は、無料受験相談にお越しください。
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